国連が日本政府へ「特別支援教育中止」「早期発見・療育への懸念」

子どもの支援

2022年9月9日、国際連合(以下、国連)の障害者権利委員会が、障害者権利条約に関する初の日本政府への審査結果を総括所見として発表しました。

「障害児を分離した特別支援教育の中止」「早期発見・早期療育システムが社会的隔離へつながる懸念」「インクルーシブ教育・保育の実施」など、子どもの支援に関する内容が盛り込まれており、ニュースでも取り上げられていたので、見聞きしたことのある方もいるかと思います。

子どもの支援、障害支援に携わっている人は、心に留めておく必要があるトピック私自身も、この総括所見の内容は、仕事への取り組み方などを見直すきっかけとなっています。

日本が障害者権利条約を締結して初めての審査所見。今後、外務省からも所見を受けての発表があるかと思いますが外務省から総括所見和文仮訳が公表されました)、ここで、国連が総括所見を出すまでの流れと所見内容を確認し、大切なことは何かについても、少し考えてみたいと思います。

 

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障害者権利条約締結から審査所見発表までの流れ

障害者権利条約とは

  • 障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置等について定める条約
  • 全部で50条あり、主な内容は(1)一般原則、(2)一般的義務、(3)障害者の権利実現のための措置、(4)条約の実施のための仕組み
  • 当事者を「医学モデル」ではなく「社会モデル」として捉えている

日本における障害者権利条約の流れ

  • 2006年12月 国連総会で「障害者権利条約」採択
  • 2008年5月 「障害者権利条約」発効
  • 2014年1月 国連へ批准書の寄託(140番目の締結国)
  • 2016年6月 第1回政府報告書を国連へ提出 ※1
  • 2019年10月 第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問 ※2
  • 2022年5月 上記事前質問への回答 ※3
  • 2022年8月 ジュネーブ国連本部で初めての日本の審査
  • 2022年9月 国連が日本への総括所見を公表 ※4

詳細はこちらです

 

総括所見の内容

ニュースでも取り上げられていた国連が発表した日本への総括所見の内容。上記にリンクを載せた総括所見は、複数項目にわたっており全18ページあります。

その中で、子どもに関するものをいくつかピックアップしてみたいと思います。

 

自分で和訳しているため読解が不十分な点があると思いますが、ご容赦ください

                 

【追記】外務省から総括所見和文仮訳が公表されました

                           

                      

早期発見・早期療育システムへの懸念と勧告

Ⅲ-B-17と18

●懸念
母子保健法に規定されている早期発見・早期療育システムは、障害のある子どもたちを社会的隔離に導き、地域社会や包括的な人生の展望を妨げていること

○勧告
障害のある子どもたちが、他の子どもたちと平等に早い時期から一般の保育制度を十分に享受できるように必要な全ての措置を講じることを目的として現行の法律を見直すこと

障害のある子どもたちの教育への懸念と勧告

Ⅲ-B-51と52

●懸念
障害のある子どもたちが分離された特別支援教育。医学に基づく評価によって、障害をもつ子どもたち、特に知的又は心理社会的障害のある子どもたち、より集中的な支援を必要とする子どもたちは、通常の環境での教育にアクセスしにくくなっている。

○勧告
分離された特別支援教育の中止を目的として(中略)障害のある子どもがインクルーシブ教育を受ける権利を認め、全ての障害のある児童・生徒が、全ての教育レベルにおいて、合理的配慮と必要な個別支援を受けられるように、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択

●懸念
障害児が通常の学校への入学準備が整っていないとの認識による入学拒否、2022年に出された「特別支援学級の児童・生徒が在籍時間の半分以上を普通学級で過ごしてはならない」という大臣通達

○勧告
全ての障害児の通常の学校への通学を保障し、通常の学校が障害児を拒否することを禁止する条項や方針を打ち出し、特別支援学級に関する大臣通達を撤回すること

●懸念
障害をもつ学生への合理的配慮の提供が不十分

○勧告
障害のある子どもたちが、それぞれの教育的欲求を満たし、インクルーシブ教育を確保できるよう、合理的な配慮を保障する

●懸念
教員のインクルーシブ教育に対するスキルの欠如と否定的な態度

○勧告
教員や教員以外の教育関係者にインクルーシブ教育の研修を行い、障害の人権モデルに対する認識を高めること

  

インクルーシブ教育・保育の視点が、強調されている印象を受けます

 

大切なことは何だろうか

障害者権利条約を締結するにあたり、2010年以降、日本国内では数々の制度改革が行われました。

今回の、国連からの総括所見を受けて、様々なことが変化していくかと思います。よりよい方向に変化していくことを望みますし、障害のある子どもたちに関わる一人として自分自身もその一端を担っていかなければなりません。

そのために、大切なことは何だろうか?と考えます。

そもそも、なぜ今こうして議論がなされているのか、なぜ障害者権条約ができたのか・・・元を辿れば、一人ひとりの人権や自由を尊重するという目的からスタートしています。

法律や制度改革などシステムを変えていくことは重要です。システムが変わることの影響力はとても大きいからです。

その一方で、どのシステムの中にいたとしても、支援にあたる人たちが、「自分の行っていることは人権や自由を保障してると言えるだろうか?」という視点で臨み、必要とあらば柔軟に変化していくことで変えられることも少なくないのではないかとも思っています。